インタビュー

【取材】ブロックチェーンは社会をどう変えるのか?その本質と可能性に迫る|近畿大学 山崎重一郎 名誉教授

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ブロックチェーンは、これからの社会でどう活かされていくのか。どんなふうに社会を変えていくのか。

技術自体は日々進化を遂げており、特にインフラ面では大きな進展が見られます。ただ、その最先端の技術を現実の社会に自然に馴染ませていくには、法制度の整備やセキュリティの確保、そして何よりユーザーにとっての使いやすさなど、乗り越えるべき課題がまだ多く残されているのが現状です。

そこで今回は、暗号資産やブロックチェーンのご専門家である、近畿大学 山崎重一郎 名誉教授に、技術の今と、社会に実装していくうえでの課題、そしてその先に広がる可能性について、お話を伺いました。

プロフィール

山崎 重一郎

近畿大学 名誉教授。九州大学大学院システム情報科学府・情報工学専攻博士課程修了。富士通研究所などを経て、2003年より近畿大学教授、2024年より産業理工学部 特任教授を経て、2025年に名誉教授就任。ブロックチェーン技術およびその経済圏における応用に関する研究開発を専門とする。主な著書に『ブロックチェーン技術概論 理論と実践』(講談社)、『ブロックチェーンの技術と革新:ブロックチェーンが変える信頼の世界』(ニュートンプレス)などがある。

─まずはじめに、これまでのブロックチェーンの技術発展について、どのように捉えられていますか?

ブロックチェーンの技術面では、目まぐるしく進展してますね。例えば、ゼロ知識証明みたいなプライバシー保護の技術、スケーラビリティを改善する技術が急速に進化しています。私自身も追いかけるのが大変なほど、技術的な進展が続いています。

暗号技術に限らず、符号理論とか情報圧縮技術、通信量の削減技術といった分野でも研究も進んできていて、それらがブロックチェーンの発展にとって本質的に効いてくると感じてます。

例えるならば、現在のブロックチェーンは、携帯電話の世代で言うと、2Gの段階にあると思います。

2Gの頃は、1平方キロメートルあたりで同時に通話できる人数は10人程度でした。しかし今では、5Gでは100万人規模の同時接続ができます。

今のブロックチェーンは、その2Gくらいのレベルにいると思っていて、これが4G並みにならないと、実用レベルとは言いづらいですよね。

─ブロックチェーンがインフラとして社会実装されるには、どのぐらいの規模や条件が必要ですか?

クレジットカードの処理能力を一つの目安にしていますが、正直なところ、それでも全然足りていません。日常的に使おうと思ったら、さらに桁違いのスケールが求められるんです。

今のブロックチェーンは、まだまだ通信面でも非効率な部分が多い。P2Pであるがゆえに、全ノードにデータをブロードキャストしてしまう。これって実はすごく冗長で、本当は全員が全部のデータを持つ必要なんてないんですよね。

たとえば符号理論をうまく使えば、データの一部からでも必要な情報を再構築できる仕組みを作ることができる。実際、研究でも通信量を1/1000に抑えられることは確認されていて、これだけでもかなり効率化できる余地があります。

それから、セカンドレイヤー技術ですよね。たとえばビットコインのように、UTXOモデルでは最終結果だけをオンチェーンで清算することによって効率化してますよね。

そこに、スマートコントラクトが絡んでくるとプログラムとしての処理が加わるため、その計算結果が正しく実行されたかどうかをブロックチェーン上で検証可能にする必要があります。

それをロールアップのような仕組みでオフチェーン処理+ゼロ知識証明と組み合わせれば、「この計算結果は間違っていません」ってことを証明としてオンチェーンに持ってこれる。つまり、監視してなくてもウソはつけない、という状態が作れるんです。

もう一つ、実行主体の責任問題です。ブロックチェーン上でいろいろな経済活動が行われる中で、それを実行しているのが誰なのか、どの法人なのか、あるいはプログラムによるものなのか、その責任の所在が明確であることが必要です。

この点は、たとえばマイナンバーカードがiPhoneに対応したことで、公的な本人確認とウォレットの紐付けが技術的には可能になってきています。法人格に関しても、 e-シールのような仕組みで、「これは法人が出した正式な書類です」といった検証可能性を担保できるようにしていく必要があります。

見積書や領収書、ホワイトペーパーなど、法人が発行するドキュメント全般において、「これは本当にその法人が出したもので、内容が改ざんされていない」と保証できるようなインフラが整えば、実用性も格段に高まるはずです。

─通貨の決済手段として、仮想通貨を利用するうえでの課題はどこにあるとお考えですか?

仮想通貨そのもので決済するというのは、現実的にはやはり不便なところがあるんですよね。たとえば、ETHやビットコインでモノやサービスの支払いをしようとすると、価格変動が大きくて使いづらいという問題がある。そこでステーブルコインを使えば、円やドルといった法定通貨に価値が連動した形での決済ができます。

ただ、こうした仕組みをきちんと実現していくには、金融機関としてのライセンスを持った主体の関与が不可欠です。国が正式に許可を出した事業者が関わることで、初めて合法的な運用ができるようになります。

また、ここには金融政策や安全保障の観点も関わってきます。たとえば、日銀が一生懸命コントロールしている日本円の供給量に影響が出たり、国際的な制裁を回避する抜け道として悪用されるリスク、マネーロンダリングやテロ資金供与といった問題も無視できません。

日本においては、こうしたリスクに対応するための法制度がかなり整備されてきています。特にステーブルコインについては、資金決済法などの枠組みの中で、明確な法的位置づけが定められており、グローバルに見ても法整備は進んでいると思います。

─つぎに、トークンエコノミーについて伺いたいです。トークンはどういうものだと捉えていますか?

まずお金には大きく分けて「流通性」と「汎用性」という2つの性質があります。トークンというのは、どちらかというと“流通性”を拡張するための存在だと捉えています。

汎用性というのは、たとえば現金のように「何にでも使える」という機能のことです。現金であれば、コンビニでも電車でも、どこでも使えますよね。一方で、電子マネーになると使える場面が限定されてしまう。交通系のICカードであれば電車には乗れるけれども、お酒は買えないといった具合に、利用範囲に制約が出てきます。

そしてもう一つの“流通性”というのは、「誰に対しても使えるかどうか」、つまり取引の相手が限定されないことを意味します。たとえば、ある特定のチェーン店でしか使えないポイントやクーポンは、流通性が低いということになります。

この点で、ブロックチェーン上のトークンは、特定のプラットフォーマーに閉じた電子マネーとは異なり、管理境界を超えて広く流通できる点に大きな特徴があります。GAFAのような巨大プラットフォームでは、その枠の中でしか価値の移動ができませんが、トークンであれば異なるサービス間をまたいでやり取りができる。この流通性の担保がWeb3における最も重要な部分だと思っています。

そして、この“流通性”を支えているのが標準化の仕組みです。たとえばERC-20やERC-721のようなトークン規格が存在するからこそ、ウォレットや取引所、アプリ間でスムーズにやり取りが可能になります。重要なのは「NFT」という言葉よりも、ERC-721という共通仕様があることなんですね。

─トークンの技術的な可能性や、そこに付随する経済圏について、どうお考えですか?

トークンは、たとえばERC-20のような規格を持ったものには、さまざまな機能を後から追加することができます。いわば「プラグイン」できる仕組みになっているわけです。

トークンというと、単体で売買される資産のように見られがちですが、本質はそこではありません。重要なのは、トークンにサービスを結びつけ、その機能を拡張していくことです。ウォレットとして広く普及しているMetaMaskにも、こうした外部機能を取り込める構造が備わっています。

たとえばSpotifyのようなプラットフォームでは、ユーザーが月額料金を支払うことで音楽を視聴でき、その料金が一定割合でミュージシャンや作詞作曲家に分配される仕組みになっています。ただし、プラットフォーマーであるSpotify自身が約30%を取り分として差し引くため、クリエイターに届く金額は限られているのが現状です。

これをWeb3に置き換えるとどうなるか。たとえば、ユーザーが支払う料金の送金先をSpotifyではなく、スマートコントラクトのアドレスに変更します。スマートコントラクトは仮想通貨を保持できる仕組みで、そこに集まった資金は一種のプールとして機能します。そして、音楽が再生されるたびに、そのプールから原盤権や著作権を持つミュージシャンや作詞作曲家に対して、自動的かつ透明に報酬が送金されるように設計できるのです。

もちろん、音楽や映像を世界中に配信する際には、データベースやCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)のようなインフラ費用が発生するため、集まったお金の100%がクリエイターに渡るわけではありません。ただ、従来の中央集権的なプラットフォームに比べると、より高い分配率を実現できる可能性は十分にあると考えています。

─トークンが持続的に普及するには何が必要だと思いますか?

まずはステーブルコインをしっかりと整備し、決済手段として安定的に機能させることが、第一段階として重要だと思っています。

とはいえ、ステーブルコインを用いた決済には、法的な裏付けが必要です。たとえば、日本円や米ドルでの決済をブロックチェーン上で実現するには、金融機関としての免許を持つ企業の存在が不可欠です。

こうした金融機関は必ずしも表に出る必要はなく、エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)の形で、音楽やゲームといった表層のアプリケーションの裏側で決済処理を担うという形です。

まずはステーブルコインが確実に使える環境を整備することが前提になります。スマートコントラクトとステーブルコインがきちんと連動し、その上で、トークン経済の中に自然に組み込まれていくことです。

─そのステーブルコインが手軽に使われるために技術的にどのような課題がありますか?

現在、金融庁が提示しているステーブルコインの制度設計は、パブリックブロックチェーンではなく、プライベートブロックチェーンを前提にしたモデル。しかしこれでは安全性を高める反面、ブロックチェーンの最大の利点である流通性を犠牲にしているような状態です。

パブリックチェーン上でも安全にステーブルコインを流通させる方法が必要だと思っています。その際に参考になるのが、「クレジットカードの仕組み」なんです。

海外で日本のカードを使ってスムーズに決済できるのに、国際送金となると大変で時間がかかる、この違いは非常に大きいですよね。クレジットカードの決済は「4コーナーモデル」と呼ばれる仕組みで成り立っていて、カード発行銀行、加盟店の決済銀行、カードブランド、決済ネットワークが四つの角をつないで資金をやりとりする構造です。

この「4コーナーモデル」をトークンを使ってブロックチェーン上に再現できないかと考えています。ただ、現状のBitcoinなどでは「角を曲がる」ような送金ができない。複数のアドレスを経由し、文脈を持った送金の制御ができないんですね。しかし、Bitcoinの次期アップデートである「Covenants(コベナンツ)」が実装されれば、曲がりくねったルートを持つ送金も可能になると期待されています。

クレジットカードも今ではカードそのものではなく、スマホのアプリ内で完結しますよね。その裏側で「4コーナー」の構造が自動的に機能している。これと同じことをブロックチェーンでも実現できれば、たとえば日本に来た旅行者が気に入った日本酒を海外から定期購入するような場合でも、スムーズな国際送金ができるようになります。

こうした実社会で当たり前になっている資金の流れを、パブリックチェーン上で再現し、しかも安全性と利便性を両立させることが必要です。

─ブロックチェーンの社会実装において、どのような考えや姿勢が必要ですか?

技術が進歩するにつれて、社会も当然変化していくべきだと思いますが、その変化は乖離したものではなく、今の社会と連続性が必要であるべきだと考えています。

というのも、今私たちが生きている社会というのは、何千年もの人類の歴史のなかで積み重ねられてきたうえに成り立っています。その延長線上にあるものではないと、なかなか受け入れられない。社会のルールや仕組みは、機械のようにパーツを入れ替えることで一気に変えるものではなく、身体のように少しずつ適応しながら変わっていくものだと思うんです。

だからこそ、ブロックチェーンをはじめとした新しい技術を社会に実装していく際も、「いきなり大きく変える」のではなく、今ある制度や価値観との連続性を持ちながら変化していく必要があると感じています。

─最後に、現在注目されている領域や、今後に向けた展望があれば教えてください。

いま注目しているのは、音楽産業ですね。実は日本の音楽産業は、世界第2位の規模を持っています。

音楽はアニメと並んで非常に高いクオリティを持つジャンルですが、意外にも国内ではストリーミングの利用がほとんどやっていないのが現状です。

背景には、日本では月額1,000円前後の価格帯になってしまっていて、海外では3,000円程度が一般的。CD一枚分の価格で何曲でも聴けるという海外基準に比べると、日本はかなり抑えられており、こうした状況もあって、ストリーミングサービスに登録しても、ほとんど収益がないという問題があります。

なので、日本の音楽産業はいまだにCD中心で、結果的に国内でしか流通しません。それにもかかわらず、世界第2位の規模があるのは驚異的ですが、同時に、海外では全く知られていません。

あくまでプロトタイプレベルではありますが、よりグローバルな収益を直接的に届けられるようなWeb3的なプラットフォームを構築できないかと考えています。

ただ、このようなプラットフォームを成立させるには、ステーブルコインの存在が前提になります。たとえば、ミュージシャンに報酬を支払う際にEthereum(ETH)で支払うのは現実的ではありません。

また、二次利用・三次利用まで見据えた音楽配信インフラを考えています。たとえば、音楽登録時にフィンガープリントを生成しておけば、その楽曲がたとえば動画配信や他のメディアで利用された際に、瞬時に著作権者や現場の関係者に報酬が分配されるような仕組みができたらと思っています。

そのようなことを盛り込んだものをやってみたいと思っていますね。

─今回の取材では、ブロックチェーン技術の進化やその先に広がる可能性、そしてトークンが果たす役割や経済圏について、近畿大学の山崎重一郎名誉教授からじっくりとお話を伺うことができました。

インフラ技術の急速な進歩や“今の社会との連続性”を意識した発展のあり方。また、技術の話にとどまらず、法制度や経済性まで幅広く語っていただいた内容は、とても考えさせられるものでした。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

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