インタビュー 暗号資産

【取材】ビットコインの価格はどう影響しているのか?価格形成の特性について|広島経済大学 高石哲弥 教授

当サイトにはPRリンクを含む場合があります。

ビットコインはしばしば、「投資対象としての魅力」や「ボラティリティの大きさ」が注目されます。

しかし、その背後にある価格形成のメカニズムや市場の特性については、まだ十分に解明されているとは言えません。

今回は、計算物理学と時系列解析を専門とし、ビットコインの価格変動の仕組みや投資資産としての性質を研究されている、広島経済大学の高石哲弥教授にお話を伺いました。

プロフィール

高石 哲弥

広島経済大学 教養教育部 教授。1990年に広島大学理学部を卒業後、同大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程を修了し、博士(理学)を取得。ハイデルベルク大学理論物理学研究所研究員、チューリッヒ工科大学スイス科学計算センター博士研究員などを経て、2008年4月より現職。

専門は計算物理学、経済物理学、金融データ分析。日本金融・証券計量・工学学会、情報処理学会、日本物理学会などに所属。2023年度JAFEE論文賞を受賞。ビットコイン市場におけるボラティリティや効率性分析など、時系列解析を用いた金融市場の研究を行っている。

─まず、ビットコインの価格変動についてお伺いします。これまで何度も大きな上昇や下落を繰り返してきましたが、この値動きをどのように捉えていらっしゃいますか?

ビットコインが登場した当初は、現在のような高値ではなく、非常に低い価格でした。それが今では日本円で1,000万円を超える水準に達しています。

ビットコインの価格変動の性質を研究していますが、「なぜ変動するのか」を明確に説明するのは非常に難しい問題です。

ただ、過去を振り返ると、歴史的な出来事や市場のニュースが価格に影響を与えてきたことは確かだと言えます。

たとえば初期の頃は、取引所のハッキング事件が価格を下げる大きな要因でした。

代表的なものでは、マウントゴックス事件や日本国内のコインチェックのハッキングが挙げられます。

一方で、価格を押し上げる要因としては「半減期」があります。

発行枚数が減少することでビットコインの希少性が高まり、それが価格上昇の材料となるケースです。

─ビットコインは、有事の際に資産の逃避先になるという見方もありますが、実際にそうした事例はあったのでしょうか?

実際に、過去にもそのような動きが見られました。

たとえば、キプロスで金融危機が起きた際には、銀行の取り付け騒ぎのような事態が発生しました。

そのとき、多くの人が自分の資産を守るためにビットコインに目を向けたのです。

ビットコインは国境を越えてオンライン上で送金できるため、「資産の逃避先」として注目されました。

こうした局面では、価格がポジティブに反応したケースも見られます。

─過去を振り返ると、2017年、2021年、そして2024年など、節目ごとに大きな上昇が見られました。特に2021年のコロナ禍では急騰が印象的でしたが、あの時期の値動きについてはどのように分析されていますか?

コロナ禍の時期は、世界的に株式市場が大きく動きましたが、ビットコインは意外と影響を強く受けていなかったように見えます。

私の研究では「市場効率性」という観点から変動の性質を分析しており、その結果、コロナ期においてもビットコインの市場構造はそれほど変化していませんでした。

株式市場が急落しても、ビットコインは同じような動きをしなかったのです。

一時的には「ヘッジ資産」としての性質を持っていた可能性も考えられます。

一般的に「株価とは違う動きをする資産」としてビットコインが語られますが、現時点ではどのように位置づけられるのでしょうか?

ヘッジ資産として機能するためには、他の資産と同じ方向に動かない、つまり「非連動性」が重要です。

たとえばゴールドがその代表例ですね。

ただ、ビットコインの場合は時期によって株価との相関関係が変化します。

ある時期には連動が強まり、またある時期にはほとんど関係がなくなる。

最近では、アメリカや日本の株価が上昇すると、ビットコインも一緒に上昇する傾向が見られます。

そのため、現時点では「純粋なヘッジ資産」とは言い切れません。

時期や市場環境によって、ヘッジとしての有効性が変わる資産と言えるでしょう。

─これまで、ビットコインが大きく高騰した背景には、特定のイベントや要因があったのでしょうか? それとも、やはりビットコイン自体の「希少性」が価格上昇を支えていると考えられますか?

そうですね。全体として見ると、やはり希少性の影響は大きいと思います。

発行枚数の上限が決まっていることによって、「限られた資産」というイメージが形成されており、その価値がじわじわと上がってきた側面があります。

また、「資産の逃避先」としての需要も見られます。

たとえば、アメリカの関税政策や政府機関の閉鎖など、不透明な要因が出てくると、不安回避の動きから資金がビットコインに流れるケースもあります。

もっとも、こうした動きは後付けの解釈であることも多いのですが、心理的な影響は無視できません。

さらに、直近の上昇についてはETF(上場投資信託)の存在が大きいでしょう。

海外ではすでに複数のビットコインETFが承認され、機関投資家の資金が流入している可能性があります。

今後、より多くの国でETFが上場すれば、ビットコイン市場に新たな資金が流れ込み、価格を押し上げる要因となるかもしれません。

つまり、「特定の出来事だけで説明する」のは難しく、複数の要素が絡み合って価格を動かしているというのが実態です。

─なるほど。上昇の要因は一つではないということですね。

たとえばイーロン・マスク氏が「ドージコインを支持する」といった発言をすると、相場が急激に動くことがあります。

特にドージコインは彼の発言をきっかけに一時的に大きく上昇しました。

また、テスラ社がビットコインを購入したときにも価格が上がり、逆に売却の報道が出た際には下がるなど、企業や著名人の行動が市場に強い影響を与えている事例があります。

加えて、ビットコインは使用用途として、「決済手段」として見込まれていたと思いますが、ほとんど使われていません。

過去には、エルサルバドルがビットコインを法定通貨として採用したことで注目を集めましたが、成果については賛否があり結論には至っていません。

ただ、今後日常の決済に使えるようになれば、需要の拡大と価格上昇につながる可能性は十分にあります。

現状のビットコインは送金に数分から十数分かかり、手数料も高いため、決済には不向きな面があります。

この課題を解決できるのがライトニングネットワークです。ライトニングネットワークは、ビットコインのブロックチェーンとは別のレイヤーで取引を処理する仕組みで、即時送金・低コストが特徴です。

もしこの仕組みが普及すれば、PayPayのようにスムーズな送金が可能になるかもしれません。

─ビットコインが「デジタルゴールド」と呼ばれることについて、先生はどのようにお考えでしょうか?

完全にゴールドと同じとは言えませんが、いくつかの共通点はあります。

たとえば「希少性」です。

金は地球上に存在する量が限られており、採掘できる量にも上限があります。

ビットコインも同様に発行上限が決まっており、その点では性質が似ています。

また、金融不安時の「逃避先資産」として買われることがある点でも共通しています。

一方で、ビットコインには実体がなく、価値を支えるのは人々の信頼や人気です。

ここが、実物資産であるゴールドとの決定的な違いだと言えるでしょう。

今後、決済手段としての利便性が高まり、より多くの人が日常的に使うようになれば、ビットコインは「デジタルゴールド」から「デジタルマネー」へと進歩していく可能性があると思います。

─直近ではゴールドの価格がかなり上がっていますよね。こうした背景には、どんな要因があるとお考えですか?

金融市場の不安や将来への不透明感が大きいと思います。

たとえば米国の政権交代や政策リスクで「この先どうなるのか」という不安が高まると、投資家は安全資産のゴールドへ資金を逃がす傾向があります。これは、歴史的にも繰り返されてきた動きです。

加えて、ゴールドがビットコインと決定的に違うのは、実需がある点です。

金は装飾品や金融資産としてだけでなく、半導体や電子部品の配線にも使われています。投資対象としての価値に加え、現実に使われる素材としての価値があるのです。

─金は実際に使われているということですね。

今は世界的にAI開発競争が激化していますよね。

米国では OpenAI や Google(Gemini)、中国では DeepSeek など、各国でモデル開発が進んでいます。これらの AI はGPUを大量に用いて学習します。

GPU を製造する NVIDIA などの企業では半導体需要が急増し、その配線や接点に金が用いられています。

つまり、AI の発展が進むほど、電子部品に使われる金の需要も増えていく、というわけです。

─そうなると、使われる金の量が増えて、市場の供給量が減っていくということでしょうか?

一部はそうですね。

使われた金は半導体や電子機器の中に取り込まれていきます。

ただし、すべてが失われるわけではありません。

たとえば、「都市鉱山」という考え方があります。

これは、使用済みの電子機器から金属資源をリサイクルして取り出す仕組みのことです。

東京オリンピックの金メダルも、実はそうした電子部品のリサイクル素材から作られたものでした。

とはいえ、電子部品の生産量が増えるほど、金が実需として使われる量も増えるため、金融資産として流通する金の量は相対的に減っていくことになります。

AIや半導体産業の拡大は、金の実物としての価値をさらに押し上げる要因にもなっているんです。

─「金がこれだけ上がるならビットコインももっと上がるはず」という見方もあります。両者の上がる理由は同質だと考えていいのでしょうか?

上がっている理由は違うような気がします。

ゴールドは「金融不安時の逃避先」であると同時に、実需(装飾品、産業用途)もあります。

ビットコインもそのような希少性や逃避需要に加えて、市場への資金アクセス手段(ETFなど)の整備・拡大が効いていると思います。

今後、日本でも暗号資産ETFが認められるなら資金流入の新たな経路となるでしょう。

─日本で暗号資産の税率が株式やETFと同様(概ね20%)になれば、資金流入が進むという見方で合っていますか?

可能性はあります。現状、日本の暗号資産の課税は総合課税(最大約55%)ですが、株式・ETFは申告分離課税(約20%)です。

もし暗号資産や関連ETFが分離課税に整理されれば、高額納税を避けたい投資家の参入ハードルが下がるでしょう。

暗号資産を組み込んだ投資信託や新しい金融商品の開発が進み、結果として市場規模の拡大=価格の押し上げ要因になる可能性があります。

─ビットコイン固有の価格形成要因として語られるのが半減期です。どのようなメカニズムで価格に影響しますか?

半減期は、マイナー(採掘者)への新規発行報酬が半分になるイベントです。ブロックを見つけて承認したときにもらえる新規ビットコイン(+その時の送金手数料)のうち、新規発行分が段階的に減る。

市場に流入する新規供給が減るため、希少性が増すことで価格には上昇圧力という整理が一般的です。

実際、過去にも半減期前後で上昇局面が見られますが、ビットコイン全体が長期的に上がってきた流れの中で起きているため、半減期だけの効果と断定するのは難しい面もあります。

─「半減期後は1年〜1年半ほど強い」といった“サイクル論”も語られますが、上昇要因はさらに分からなくなってくる可能性がありますよね?

サイクル論は薄れていく可能性があります。

すでに発行済みは全体の約95%に達しており、今後は増加ペースがごく小さくなります。このため、半減期による“供給ショック”の相対的な影響は微々たるものになっていくはずです。

市場規模が拡大するにつれ、ETFやマクロ・政治要因の影響度が相対的に大きくなる可能性があります。「半減期=上がる」といった単純な統計パターンは、だんだん説明力を失うかもしれません。

─ビットコイン投資のリターンとリスクを短期・長期でどう捉えるべきですか?

短期はボラティリティが非常に高い点をまず理解する必要があります。株のようなストップ高・安や取引時間の制限がなく、24時間動き続けるため、急落が続く局面では下げが加速しがちです。

長期ではこれまで右肩上がりのトレンドが続いてきたのも事実で、市場の制度整備(ETF、規制・税制)が進めば、資金の受け皿としての機能が高まり、ポジティブな影響が期待できます。

─今後の値動きに影響しそうな要因を整理すると、(1)税制、(2)ETF、(3)通貨危機などのヘッジ需要──このあたりが大きいという理解でよいでしょうか?

ビットコインの価格に影響を与えるイベント的な要因は、予測が難しい部分があります。

ただ、ウクライナ情勢のように戦争や政治的な出来事など、世界的な不安定要素があると、市場心理を通じて影響が及ぶ可能性はありますね。

一方で、ある程度見通しを立てられる要因もあります。

たとえば、ETF(上場投資信託)の拡大や、ライトニングネットワークの普及によってビットコインが実際に使いやすくなるかどうか。

こうした制度的・技術的な動きが、今後の価格形成に大きく関わってくるのではないかと考えています。

─最後に、ビットコインを初めて買う人が最低限おさえておくべき視点を教えてください。

まずはボラティリティ(値動きの大きさ)です。短期では1日で数%〜二桁%動くことも珍しくありません。上にも下にも速い。

そして、将来の価格は誰にもわからないという前提を持つこと。リスクを許容できる金額の範囲で向き合うのが基本です。

ただし、「上がるから上がる」といった短絡的な期待には乗らないこと。変動が非常に大きい資産であることを念頭に、リスク許容度と時間軸をはっきり決めて、少しずつ判断していくのが良いと思います。

  • この記事を書いた人

gemefi.town運営事業部

gamefi.townでは、NFTゲーム/ブロックチェーンゲームを専門とする暗号資産メディアです。Play to Earn(P2E)の可能性を追求し、最新トレンドや注目のニュースをリアルタイムで配信。また、実際のプレイ体験や独自検証をもとに、収益性や稼ぎ方のポイントなど役立つ情報を発信しています。公式X(旧Twitter)でも最新情報を発信中!ぜひフォローして、最新のトレンド情報をいち早くチェックしてください。

-インタビュー, 暗号資産