SBI金融経済研究所は3月25日、副島豊研究主幹によるレポート「ステーブルコインとトークン化預金とホールセールCBDC」を公開しました。
円建てステーブルコインや次世代決済インフラを巡る議論が国内で熱を帯びるなか、同レポートはステーブルコインの課題を「受容性の摩擦」「償還の摩擦」「台帳非互換の摩擦」の3つに整理し、トークン化預金とホールセールCBDCがその橋渡し役になり得るとの見方を示しました。
今回のレポートで目を引くのは、ステーブルコイン固有の問題として切り分けるのではなく、銀行預金と共通するマネーの原理から非互換性を捉えている点です。副島氏は、発行体が異なるマネーには互換性がないという原則が、ステーブルコインでもそのまま表れていると分析しました。
まず「受容性の摩擦」は、トークンが転々流通できるとされる一方で、その前提として受け手が同じチェーン上にアカウントを持っていなければならないという課題です。副島氏は3月25日公開のレポートで、「トークンの有用性として転々流通するという特徴が指摘されることがある。これは、受け手がおなじチェーン(分散型台帳)にアカウントを有している場合に成立するものであり、この受容性が常に成立するとは限らない」と記しました。
次に「償還の摩擦」は、発行体ごとに裏付け資産の管理主体が異なるため、別の発行体による代替的な償還ができないという問題です。額面が同じでも、誰が発行したかによって償還請求先が異なるため、相互に完全な代替物にはなりません。これは銀行預金でも、A銀行の預金をB銀行がそのまま払い戻すわけではないのと同じ構図です。
3つ目の「台帳非互換の摩擦」は、同じ発行体のステーブルコインであっても、異なるチェーン間では直接移動できない点を指します。レポートでは、クロスチェーン接続のためのプロトコルが存在しても、接続先が増えるほど効率性の問題が生じると説明しました。個別の接続を積み上げる方式では、ネットワークが広がるほど運用が複雑になるという見方です。
銀行預金の歴史と重ねる視点
レポートは、こうした摩擦を日本の決済史にも重ねています。副島氏が引いたのは、明治初期の国立銀行による内為コルレスバンキングの時代です。当時も発行体の異なるマネーの非互換性が課題となり、最終的には中央銀行マネーを基盤とする二階層型のマネーシステムと決済高度化によって整理されていきました。
この歴史的な経緯を踏まえ、レポートは現在のデジタルマネー環境でも、既存の金融システムと分散型台帳ベースの新たな仕組みが並存する「デュアルシステム化」が進む可能性を示しています。その結節点となるのが、銀行預金をトークン化した「トークン化預金」と、中央銀行当座預金をトークン化した「ホールセールCBDC」です。
副島氏は、ステーブルコインだけで閉じた世界を描くのではなく、既存の銀行システムとどう接続するかが重要だとみています。発行体や台帳の違いによる摩擦を、中央銀行マネーや銀行マネーとの接続によってどう吸収するかが、今後の制度整備やインフラ整備の焦点になりそうです。
国内の制度・インフラ議論と接続
このタイミングで同レポートが公表された背景には、2026年2月下旬から3月上旬にかけてのJapan FinTech Weekで、円建てステーブルコインやトークン化マネーを巡る議論が活発化したことがあります。3月19日ごろには全銀ネットが新決済システム構想に関する報告書を公表し、ステーブルコイン発行体との連携やトークン化預金の相互運用を視野に入れた方向性を示しました。
日本銀行もトークン化当座預金に言及しており、民間マネーと中央銀行マネーをどう新しい基盤に載せるかが政策・業界の共通テーマになっています。
そうした流れのなかで、SBI金融経済研究所のレポートは、個別案件や技術論に入る前段として、なぜ相互運用性の問題が起きるのかを原理から整理した内容といえます。ステーブルコインを巡る議論では、しばしば送金速度やプログラム可能性に目が向きますが、実際の決済インフラとして広く使うには、受け取れる相手が限られないか、確実に償還できるか、異なる台帳間でどう接続するかが避けて通れません。
参照:公式
