JPYCとJPYSC。どちらも1円=1トークンで動く日本円ステーブルコイン(=日本円に価値が連動するようつくられたデジタルな決済手段)ですが、中身は別物です。
違いは大きく4つあります。発行の器、金額の上限、裏付け資産の守り方、そして持ち出せる範囲です。
先に前提を1つ挙げておきます。JPYSCは現時点で、口座の外へ持ち出せません。両者を「どちらを買うか」だけで並べると実態を見誤ります。
この記事では、4つの軸それぞれについて両者を横並びで比べ、表からは読み取れない非対称性まで整理します。
JPYCとJPYSCの違い一覧|発行体・法的分類・上限額・流通範囲
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まず全体像を1枚に集約します。数値の背景は後の章で軸ごとに解きます。
| 項目 | JPYC | JPYSC |
|---|---|---|
| 発行体 | JPYC株式会社 | SBI新生信託銀行 |
| 法律上の分類 | 1号電子決済手段 | 3号電子決済手段(特定信託受益権) |
| 発行体の登録 | 資金移動業者(第二種)/関東財務局長第00099号 | 信託銀行 |
| 提供開始 | 2025年10月27日 | 2026年6月24日 |
| 裏付け資産 | 日本円(預貯金・国債) | 日本円(預貯金・国債) |
| 守りの法的仕組み | 履行保証金の供託・信託 | 信託財産としての分別管理(倒産隔離) |
| 1回あたりの発行・償還上限 | 100万円 | 上限なし |
| 対応ブロックチェーン | Ethereum/Polygon/Avalanche/Kaia | Ethereum(入出庫は未対応) |
| 持ち運びの範囲 | パブリックチェーン上を自由に移動 | SBI VCトレードの口座内に限定 |
| 想定される主な用途 | 送金・決済・Web3サービス・開発 | 決済・資金管理・クロスボーダー |
決定的な違いは4つ
表の項目は10ありますが、独立した違いは4つに集約できます。
1つ目が発行の器です。資金移動業者と信託銀行という別業態が発行しており、ここから残り3つが派生します。2つ目が金額の上限、3つ目が裏付け資産の守り方、4つ目が持ち出せる範囲です。
以降はこの順に、両者を横並びで見ていきます。
違い① 発行の器|資金移動業型(1号)と信託型(3号)
4つの違いの根っこがここにあります。
JPYCは資金移動業者、JPYSCは信託銀行が発行する

JPYCを発行するのはJPYC株式会社です。資金決済法にもとづく資金移動業者として、関東財務局長第00099号の登録を受けています。種別は第二種です。
JPYSCを発行するのはSBI新生信託銀行です。SBIホールディングスとStartale Group(スターテイル・グループ)が共同で開発し、SBI VCトレードが取扱事業者として流通を担います。利用者が預けた円は信託財産として扱われます。
号を分けるのは発行体ではなく「その価値が何か」
「1号だから資金移動業者、3号だから信託銀行」という説明を目にします。実務上の要約としては通じますが、条文の切り分け方は異なります。
資金決済法第2条第5項の1号は、代価の弁済に不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者を相手方として購入・売却できる財産的価値を指します。誰が発行したかは要件に入っていません。 3号だけは「特定信託受益権」という法形式そのものが定義です。
この差が効くのが、1号に置かれた除外規定です。1号には「3号に掲げるものに該当するものを除く」と明記されています。信託受益権の形をとるものは、代価の弁済に使えて売買もできる場合でも、1号ではなく3号に振り分けられます。
つまりJPYSCが3号なのは「信託銀行が出したから」ではありません。信託受益権という形をとった時点で、条文が3号へ送り込んでいます。JPYCが1号なのも、資金移動業者が出したからではなく、発行された価値が1号の要件を満たしているからです。
違い② 金額上限|100万円の壁があるのはJPYCだけ
上限の出どころは第二種資金移動業の枠

JPYCには、新規の発行と償還のそれぞれについて1回あたり100万円の上限があります。JPYSCに、この種の法定上限はありません。
100万円という数字は、JPYC株式会社が決めたものではありません。第二種資金移動業という登録区分が、1件100万円以下の送金を扱う枠だからです。 違い①で見た器の差が、そのまま金額の天井に出ています。
JPYSCが上限を持たないのも同じ理由です。信託受益権として発行されるため、第二種資金移動業の枠組みが及びません。
枠の内側でどう運用するかは事業者の裁量です。JPYCも当初は1日あたり100万円という自社基準を置いていましたが、現在は1回あたり100万円へと法定の枠に沿う形に改められています。短時間に連続した発行申請を制限する運用は続いています。
上限がかかるのは「円との交換」だけ
ここが比較表からは読み取れない部分です。上限がかかるのは、日本円とJPYCを交換する場面に限られます。 新しくJPYCを受け取るときと、円に戻すときのそれぞれに1回100万円の枠があります。
すでに発行されたJPYCをウォレット間で送る行為は、この枠の外です。ブロックチェーン上の移転そのものに、発行時と同じ形の上限は置かれていません。
つまり「JPYCでは100万円超を送れない」という理解は正確ではありません。制約を受けるのは入口と出口であり、まとまった額を円から変えたい場合に回数を分ける必要が出てきます。
違い③ 裏付けの守り方|供託・信託と倒産隔離
裏付け資産は同じで、守り方だけが違う

「裏付け資産が違う」と説明されることがありますが、実際に分かれているのは資産の中身ではありません。どちらも日本円の預貯金と国債で持たれています。 分かれるのは、その資産をどう守るかという法的な仕組みです。
| 観点 | JPYC | JPYSC |
|---|---|---|
| 裏付け資産 | 日本円(預貯金・国債) | 日本円(預貯金・国債) |
| 守りの法的仕組み | 履行保証金の供託・信託 | 信託財産としての分別管理 |
| 発行体が破綻したら | 履行保証金から他の債権者に優先して還付を受けられる | 信託財産は発行体の債権者の引き当てにならない |
| 守りの性質 | 額を確保する | 資産を切り離す |
| 預金保険 | 対象外 | 対象外 |
JPYCは、発行と引き換えに受け入れた資金を履行保証金として供託または信託し、破綻時には他の債権者に優先して還付を受けられる形で守ります。
JPYSCは倒産隔離という考え方で守ります。信託された財産は信託銀行自身の財産と法的に切り離されるため、発行体が倒れても債権者に持っていかれません。
額を確保する守り方と、資産を切り離す守り方。どちらが強いかを一言で断じるのは適切ではありません。効く場面が異なるためです。
JPYC側の含み|供託の額は常時100%ではない
保全の額は、一定期間ごとに算定した未達債務の額にもとづきます。算定から供託までには数営業日の間隔があります。常に残高と同額が積まれ続けているわけではありません。
破綻のタイミング次第で、保全額と発行残高にずれが生じる余地があります。優先して還付を受けられる立場そのものは変わりませんが、「常時100%が積まれている」という理解は正確ではありません。
JPYSC側の含み|貸コインに出すと守りの外に出る
信託の守りが効くのは、信託財産として置かれている状態です。同じJPYSCでも、別の契約に移した分まで同じ守りが続くわけではありません。
取扱事業者が提供する貸コイン(レンディング)にJPYSCを貸し出すと、借り受けられたJPYSCは資金決済法にもとづく分別管理の対象から外れます。 契約期間中は原則として中途解約できず、売却や譲渡もできません。事業者が破綻した場合に、貸した分の返還を受けられないリスクがあることも案内されています。
倒産隔離をJPYSCの強みとして受け取ったうえで貸コインに預けると、その強みが及ばない場所へ資産を移すことになります。
違い④ 流通範囲|パブリックチェーンか、口座の中か

いまのところ最も実感しやすい差がここです。
JPYCは4つのチェーンを自由に移動する
JPYCはパブリックチェーン(=誰でも参加できる公開型のブロックチェーン)の上で流通します。自分のウォレットに入れて、対応するサービスへ自由に送れます。
正式リリースの時点ではイーサリアム(Ethereum)、ポリゴン(Polygon)、アバランチ(Avalanche)の3つに対応していました。その後、発行・償還を行う公式プラットフォームのJPYC EXで、初の追加チェーンとしてカイア(Kaia)への対応が始まりました。
複数のチェーンに置かれていると、送り先のサービスに合わせて選べます。手数料の安いチェーンを選ぶといった使い分けも可能です。
JPYSCは口座の中だけ|入出庫そのものが使えない
JPYSCの提供が始まったのは2026年6月24日です。ただし先行提供はSBI VCトレードの口座内に限られています。口座の中で売買はできますが、外部のウォレットへ持ち出すことも、外部から持ち込むこともできません。
取扱事業者は入出庫の対応チェーンをイーサリアムのみと案内しています。ただしその入出庫自体が、現時点では使えない状態です。 「対応チェーンはEthereum」という記述だけを見ると動かせそうに読めますが、実際には動かせません。
パブリックチェーン上での流通は、関連する法令や税務の実務が整理され、監督当局の確認を得られることを前提として予定されています。発行が始まったことと、自由に使えることは別です。
違いがどこで効くか|場面別の使い分け
送金や決済にそのまま使うなら
ウォレットに入れて自由に動かせるのは、現時点ではJPYCだけです。
JPYSCも取扱事業者に口座があれば購入でき、貸コインとして貸し出すこともできます。持つこと自体は誰でもできます。ただし口座内に閉じているため、分散型サービスへの接続も、他人のウォレットへの送付もできません。
いまのJPYSCは「持つことはできても、持ち出せないもの」です。 送金や決済にそのまま使いたいなら、選択肢はJPYCに絞られます。
まとまった額を動かすなら
1回100万円を超える額を一度に円から変えたい場合、器の違いがそのまま効きます。JPYCは交換を分割する必要があり、JPYSCにはその制約がありません。
ただしJPYSCで大きな額を動かせるのは、いまのところ口座の中に限られます。外部への持ち出しを伴う使い方が候補に入るには、パブリックチェーン上での流通が始まることが前提です。
競合ではなく、器が違う2つの円

| 器 | 銘柄 | 仕組みから来る性格 |
|---|---|---|
| 資金移動業型(1号) | JPYC | 1回100万円の上限あり・パブリックチェーンを自由に移動 |
| 信託型(3号) | JPYSC | 金額の上限なし・倒産隔離・現時点は口座の中でのみ移動 |
上限のない器と、自由に動く器。この2つが別々に用意されたのは、1つの枠組みで両方を満たすのが難しいためです。
どちらが誰向けかという線引きではありません。 同じ利用者が、動かす額と使いたい場所に応じて選び分ける対象になっていきます。
JPYCとJPYSCの注意点|制度・保全・情報鮮度で押さえるべきこと

電子決済手段は暗号資産ではない
両者は法律上、暗号資産ではありません。円に連動する電子決済手段という別のカテゴリに置かれ、扱う事業者に求められる登録の種類や利用者保護の枠組みも変わります。
税務の扱いは、取引の内容や金額によって結論が変わりえます。判断に迷う場合は税務の専門家に確認することをおすすめします。
預金保険の対象ではない
どちらも銀行預金ではないため、預金保険による保護の対象になりません。銀行や信託銀行が関わっていても、預けた円がそのまま預金として守られるわけではない点は分けて理解しておく必要があります。
守りの仕組みは用意されていますが、償還の手続きや所要時間まで保証するものではありません。自分が使う予定の金額と期間に対して、その仕組みで十分かを確認しておくことが大切です。
対応チェーン・取扱条件は変わりうる
この分野は動きが速く、解説の情報が実態から遅れることが頻繁に起こります。実際、発行が始まった後も「まだ発行前」と書かれたままの解説ページが残っている例があります。
手数料・上限額・対応チェーン・入出庫の可否は、必ず発行体と取扱事業者の公式情報で最新を確認してください。
JPYCとJPYSCに関するよくある質問
Q1. JPYCとJPYSC、どちらが安全ですか
守り方の種類が違うため、一律に順位はつけられません。JPYCは残高に見合う額を安全性の高い資産で保全し、JPYSCは信託財産として発行体から切り離します。扱う金額や期間によって、効く守り方が変わります。
Q2. 個人でもJPYSCを買えますか
取扱事業者に口座があれば購入でき、貸コインとして貸し出す運用もできます。ただし外部のウォレットへ持ち出せないため、送金や決済にそのまま使う段階には入っていません。貸し出した分は分別管理の対象から外れる点にも注意が必要です。
Q3. 100万円を超える金額を送りたい場合はどうなりますか
JPYCの場合、円との交換を複数回に分ける必要があります。すでに発行されたJPYCをウォレット間で送る行為には、発行時と同じ形の上限はかかりません。JPYSCには法定の上限がありませんが、外部への持ち出しに未対応です。
Q4. 暗号資産と同じ税金がかかりますか
両者は法律上、暗号資産とは別のカテゴリに分類されます。税務の取り扱いは取引の内容によって変わるため、具体的な判断は税務の専門家に相談してください。
Q5. JPYCとJPYSCを直接両替できますか
現時点でJPYSCは口座外へ持ち出せないため、両者を直接交換する経路は用意されていません。パブリックチェーンでの流通が始まれば、状況が変わる可能性があります。
Q6. どちらかがもう一方に統合される可能性はありますか
器が違うため、片方がもう片方を置き換える形にはなりにくいと考えられます。上限のない器と自由に動く器は、資金決済法の別々の号にもとづいており、担う役割が重なりません。
まとめ|JPYCとJPYSCの違いは4つ
JPYCとJPYSCの違いは、発行の器から順に4つへ整理できます。
器は資金移動業型(1号)と信託型(3号)。上限はJPYCのみ1回100万円で、かかるのは円との交換だけです。裏付け資産はどちらも預貯金と国債で同じで、違うのは供託・信託と倒産隔離という守り方です。
流通範囲は、JPYCがパブリックチェーンを自由に動くのに対し、JPYSCは口座の中に限られます。いま自由に持ち出せるのはJPYCであり、JPYSCはパブリックチェーンでの流通が始まってから本格的に評価する対象になります。

