デジタル資産インフラ企業ファイアブロックスの共同創業者兼CEO、マイケル・シャウロフ氏は4月23日に日本で開いたイベントで、暗号資産市場は投機中心の段階を越え、ステーブルコインとRWA(現実資産)が実務インフラの中心に移ったと述べました。
シャウロフ氏は業界の流れを「3つの波」で整理しました。第1波は暗号通貨が生んだグローバルな流動性と小売利用の土台、第2波はステーブルコインによるオンチェーン支払いの高速化とコスト圧縮、第3波は証券・国債・ファンドをトークン化するRWAによって、準拠性と透明性を備えた金融インフラへ進む流れです。暗号資産ビジネス、伝統金融、実社会のユースケースが同じ場所で交わり始めたことが、その流れを後押ししています。
ステーブルコインの拡大は数字でも鮮明です。シャウロフ氏は、過去12カ月で世界のステーブルコイン供給額が1500億ドルから3100億ドルへ、月間取引量が1.2兆ドルから7兆ドル超へ増え、「SWIFTに匹敵する規模に近づいている」と語りました。用途ではB2B決済が最も大きく、輸出入企業の買掛・売掛処理、国境をまたぐ送金、クリエイターや請負業者への支払い、ビザとマスターカードが進める加盟店決済のパイロットまで広がっています。「ユースケースはこれからではなく、すでに存在している」と強調しました。
ファイアブロックス自身の処理実績も大きいです。同社は2025年に6兆ドルのステーブルコイン移転を処理し、前年から300%増えました。これまでに保護したデジタル資産取引は累計10兆ドルを超え、顧客は2400超の機関に及びます。4月15日に発表したEarnでは、機関がプラットフォーム内のステーブルコイン残高をAave(分散型の貸借市場)やMorpho(貸付プロトコル)へ供給できるようにしました。Aaveは市場活動のおよそ60%を占め、ステーブルコイン借入の多くが集まるため流動性を確保しやすく、Morpho側ではSentoraが戦略をキュレーションします。シャウロフ氏はこの機能について、「初めて機関投資家は、すでに使っている同じプラットフォームと同じ管理下で資金を働かせられる。Fireblocks上のすべての機関が、昨日までは持っていなかった収益源にアクセスできる」と説明しました。
稼働中の案件も具体的です。サークルはUSDCで機関向けGateway(接続基盤)をファイアブロックスと連携し、銀行や決済会社がステーブルコインに接続しやすい経路を整えました。セキュリタイズはRWAトークン化のセキュリティ強化を狙って統合し、ブラックロックのトークン化ファンド「BUIDL」をファイアブロックスのコンソールでセルフカストディ(自己保管)できるようにしています。ABNアムロは同社基盤を使い、欧州の主要銀行として初のトークン化債券を発行しました。バンキング・サークルはMiCA(欧州の暗号資産規制)準拠のEURI、GMO Trustは規制準拠のステーブルコイン発行とトークン化を進め、ANZは豪ドル建てステーブルコインを手がけてきました。BNYメロンもデジタル資産とトークン化の取り組みを広げています。
日本市場の伸びも無視できません。日本のオンチェーン受取価値は2025年6月までの12カ月で前年比120%増えました。Chainalysisの集計で確認された数字です。金融庁は暗号資産を投資商品として扱う枠組みの明確化、税制見直し、ステーブルコイン関連ルールの整備を進めており、暗号資産ETFを巡る議論も続いています。ファイアブロックスは2024年末に日本オフィスを開設しており、カストディ(保管管理)やTravel Rule(送金時の顧客情報通知ルール)対応の需要拡大を見込んでいます。シャウロフ氏はその一方で、スキル不足と、バッチ処理中心の既存システムをリアルタイム処理へ改める難しさを挙げ、日本企業にとってはPoC(概念実証)から本番環境へ移す実行力が問われていると話しました。
ファイアブロックスは今後、日本オフィス経由で国内金融機関や事業会社向けのカストディとコンプライアンス基盤の導入支援を広げます。4月15日に始めたEarnの早期アクセス拡大と、ステーブルコイン決済・RWA案件の本番投入が、2026年の国内市場で次に進む実務段階になります。
