「Web3って、生活に必要なものになるの?」──その問いに、LINEとKaiaは“実装”で答え始めている。
LINE上で完結するWeb3体験「Mini Dapp」は、ゲームを起点に急速な広がりを見せている。
ただのミニアプリではない。
NFTやトークンを自然なUXに組み込んだ、新たな広告手法でもあり、ユーザー体験でもある、Web3の“社会実装”だ。
本記事では、Kaia FoundationとLINE NEXTが登壇した2つのセッションを通して、「Mini Dapp」の急成長の背景と可能性を読み解く。
“誰にとっても使えるWeb3”は、すでにLINEの中から始まっている。
LINE上で始まる“次のWeb3”がここから──Dapp Portal急成長した背景とは?
LINE上で完結するWeb3アプリ「Mini Dapp」の存在感が、業界内外でますます高まっている。
今回のセッションでは、LINE NEXTとKaia Foundationが登壇し、「Dapp Portal」の構想とその急成長の背景、そして今後の展望について語られた。
登壇者
Taewon Kim(Benji)氏(LINE NEXT Corp. Head of Web3 Business)
Yoko Kito氏(Kaia Foundation Partnership Lead)
モデレーター:川口 美樹氏(0x Consulting Group Chief Growth Officer)
「Dapp Portal」はなぜ短期間で急成長しているのか?
まず、話題に上がったのは、Mini Dappを集約するプラットフォーム「Dapp Portal」が短期間で成果を出している理由について。
「IDOのローンチパッドは多数ありますが、Dappのような実際にユーザーが触れるプロダクトに適したプラットフォームは、存在していなかったと思うんですね。」とBenji氏が語る。
LINEの圧倒的なユーザー基盤を活用できる点を強調した。
「LINEにはすでに約2億人の月間アクティブユーザーが存在しています。
そのユーザー基盤に対して、“Web3への導線”を日常の中に自然と組み込むことができます。」
その導線設計において強みとなっているのが、LINEが持つマーケティングチャネルの豊富さだ。
「他のプラットフォームでは代替できない独自のマーケティングチャンネルがすでにあるので、サービスを効果的にユーザーへ届けられるところです。」
Kaia FoundationのYoko氏は、LINEという土壌の持つ“信頼性”に着目する。
「最大の特徴は、KYC(本人確認)が済んだ巨大なユーザーベースが既に存在していることです。
ボットやスパムに悩まされる環境ではなく、信頼できるコミュニティが形成されやすい。」
(なお、Web版からのアクセスにおいては、特に海外を中心にボットによる悪用が多発している点は、大きな課題と感じられる。)
さらに、UXの観点でもLINEの優位性が強調された。
「ウォレットの作成がわずか10秒で完了するシームレスな体験は、Web3初心者にとって極めて大きな魅力です。」
そして、Mini Dappが展開可能な領域の広がりにも言及した。
「ゲームに限らず、LINEはマンガ、ファイナンス、ライフスタイルなど、さまざまな分野でユーザー基盤を持っています。
この“既に存在する顧客”にDappを届けられる環境が、LINEというエコシステムの最大の強みです。」
Web3だからこそ実現できる価値とは?
Benji氏は、Web2とWeb3の本質的な違いを「資産性の扱い」と「ユーザーインセンティブの構造」に見出していると語った。
「Web2では、ユーザーに報酬を配るには法的なステップなど、さまざまな手続きを踏まなければならない。
Web3ではユーザーがウォレットを持っていれば、トークンをエアドロップするだけで完結します。これがまず大きな違いです。」
また、Web3の仕組みが企業側にもたらす利点として、「ゲーム資産のトークン化による循環性」を挙げた。
「Web2のゲームでは、ユーザーが飽きてしまえば他社のゲームに移ってしまいます。
でも、Web3ではキャラクターやアイテムがトークン化されているので、
前作の資産を次作に引き継いだり、別タイトルで使えるようにしたりすることで、
ユーザーを自社エコシステムの中で移動していける設計が可能です。」
ユーザーが一つのゲームから別のゲームに移行しても、その中で得た資産が無駄にならない。
“Web3によるロイヤリティ設計”の可能性が、ここにある。
さらに、Web3ではゲーム内アイテムのセカンダリーマーケットでの取引も容易に行える。
「ユーザー同士がアイテムを売買できることによって、セカンダリーマーケットでの新たな収益も生まれる。これはゲーム会社にとっても新たな収益モデルになります。」
これを受けて、Kaia FoundationのYoko氏は「Web3がもたらすグローバル展開のしやすさ」について補足した。
「Web3では、どの国でローンチするかをあまり気にする必要がありません。
基盤がグローバルに共通化されているので、日本にいても、東南アジアのユーザーにアクセスできる。
国境を意識せずサービス設計ができることは、Web2にはなかった大きな強みです。」
また、流動性という観点でもWeb3の利点を指摘する。
「これまでは、日本国内で売り手や買い手が見つからなければ、流動性が生まれず価値にならなかった。
しかしWeb3では、グローバルの市場全体で資産が流通する。買い手がどこの国にいても関係ないという構造は、非常に強い。」
Dapp Portal上では、1つのプロジェクトが複数ゲームに共通のトークンを使って展開する事例など、横断的な体験を設計しているプロジェクトがすでに登場しているという。
このように、Web3の構造的な利点とLINEのプラットフォーム特性を組み合わせることで、これまでにないスケーラブルなユーザー体験が形になりつつある。
急成長するMini Dappに共通するモノとは?
Benji氏は、これまでに成功しているMini Dappには以下の3つの共通点があると指摘する。
「まず最も重要なのは“クオリティ”です。率直に言えば、ゲームの質が低ければ、誰も遊びません。」
クオリティの高さを前提としたうえで、プロジェクトの将来像をどう描いているか。
つまり、ロードマップの明確さも評価基準になるという。
「Web3プロジェクトの多くは、しばしば曖昧なロードマップしか提示していません。
私たちは、審査時に“このプロジェクトがどこを目指しているのか”を最も重視して見ています。
ロードマップの明確さは、そのままプロダクトのクオリティや信頼性に直結します。」
3つ目は、他のMini Dappと積極的にコラボレーションを行っているプロジェクトが成功しやすい傾向にあると補足した。
「私たちは、KaiaチェーンやLINEのエコシステム内で、他のプロジェクトとのパートナーシップ支援も行っています。
コラボレーション意欲が高いプロジェクトほど、ユーザー拡大や体験価値の向上に成功している印象です。」
つぎに、Kaia FoundationのYoko氏は、具体的な成功事例として『キャプテン翼』のMini Dappを取り上げた。
「やはり“資産性”が高いことが、Web3においては非常に重要なポイントだと見ています。
たとえば、『キャプテン翼』のようにIPが強いタイトルは、各国でも高いARPPU(1人あたりの平均課金額)を記録しており、ユーザーにとって“持つ価値”のあるプロダクトとして映っているのだと思います。」
コメントを受け、モデレーターの川口氏からはKaiaチェーン上の他のゲームにおける報酬設計の傾向についても言及があった。
「私たちも今、複数のタイトルでリサーチを行っていますが、特に『カイア(KAIA)』をゲーム内インセンティブとして使う際の“渡し方”がうまいタイトルは、ユーザーのモチベーションをうまく引き出している印象があります。」
ゲームをプレイして一定の達成条件をクリアした瞬間、「この報酬、欲しい!」と自然に感じさせるようなタイミング設計ができているタイトルほど、課金額が大きく伸びているという。
Dapp Portalの今後──
Dapp Portalは、今後ゲーム以外のWeb3領域にも本格的に進出していく予定だ。
Benji氏から「この2ヶ月で獲得した新規ユーザー数は、私たちが想定していたB2C指標を上回る勢いで増えています」と切り出し、その成果が短期間での全力開発の賜物であることを明かした。
「ゲームだけにとどまらず、Mini DappはLINEという生活インフラ上で、金融や食品、交通といったあらゆる業界と接続できます。
Web3体験が“いつものLINEの中”で自然に始まる、そんなユースケースがどんどん増えていくはずです。」
LINE NEXTとKaia Foundationによるこのセッションは、Dapp Portalの全貌やWeb3の社会実装をどのように実現していくのかを具体的に示した貴重な時間となった。
“Dapp Portalは、Web3を使える形に落とし込む装置になっている”──その言葉通り、Web3の実用化は、LINEという日常のプラットフォームの上で確かに進み始めている。
Mini Dappが変える広告のかたち──“好きの熱量”が価値になる時代へ
Web3体験をLINE上で完結させる「Mini Dapp」の展開が進むなか、その先に広がる新たな体験価値とマーケティングの可能性について、
LINE NEXT Startの栗原氏、トランスコスモスの岩井氏、そして0x Consulting Groupの中田氏が登壇。
登壇者
- 栗原 俊幸氏(LINE NEXT Start株式会社 Web3 Business日本事業統括本部長)
- 岩井 拓也氏(トランスコスモス株式会社 CX事業統括 LINEアライアンス推進担当)
- 中田 翔平氏(0x Consulting Group CSO 兼 Head of Token Economics Consultant)
- モデレーター:伊藤 富有子氏(0x Consulting Group Alliance Manager)
セッションでは、Mini Dappの利用実績についても最新の数値(3ヶ月における利用実績)が共有された。
過去に公開されたリリース2ヶ月における利用実績については、以下の通り。
リリース2ヶ月における利用実績
- DappPortal利用回数:約4,500万回
- トップタイトルタイトルの売上:売上約 3.2億円
- トップタイトルのユーザー数:約550万ユーザー
- 課金ユーザー比率:12.9%
- 課金ユーザーあたりの平均課金額:39.03ドル
- グローバルなユーザー分布:日本 35%、インドネシア 24%、台湾 15%、タイ13%、その他
過去との比較を通じて成長の傾向が明らかにされた。
たとえば、リリース初月のトップタイトル売上は約1億円だったのに対し、2ヶ月目には累計で3億円を超えたとされており、
単発的な収益ではなく、ユーザーの継続的な利用と課金によって徐々に伸びていることが読み取れる。
地域別のユーザー構成にも変化が見られた。初期段階では日本のユーザーが大半を占めていたが、
直近ではインドネシアの伸びが顕著となり、日本に次ぐ第2位に浮上。台湾やタイなどLINEの普及率が高い東南アジア地域を中心に、着実にユーザーを獲得している。
日常の“好きの熱量”を証明に──広告は“届ける”から“選ばれる”へ。
Mini Dappの初期から開発・支援に携わってきた0x Consulting Groupの中田氏が、リアルな現場感を交えてその魅力を語った。
「Mini Dappって、“アプリでできることは基本なんでもできる”んです。
たとえば、焼き鳥屋さんの注文システムにMini Dappを導入して、10万円以上使った常連さんには“伝説の焼き鳥NFT”を発行。
持っていると、普段は出ない希少部位を注文できたり、割引を受けれたりする。」
一見ユニークに思えるこの“焼き鳥NFT”の例は、実はブロックチェーンならではのマーケティング的な可能性を象徴している。
ユーザーがどれだけ“好き”に熱量を注いできたか──その履歴がブロックチェーン上で「証明」され、それがデータとしてパブリックに残る。
「たとえば、『ウマ娘』に高額課金しているユーザーがいたとしますよね。
その履歴をNFTで証明できれば、他のゲーム会社が“うちのタイトルでも特典を提供します”と声をかけやすくなる。
要は、“どのユーザーとマッチしているか”を可視化できるようになるわけです」
これを栗原氏は、「熱量の証明が資産になるカタチ」だと表現した。
トランスコスモスの岩井氏もこの点に共感し、ブロックチェーンによって得られる「オープンな行動履歴」が、マーケティングの在り方に与える影響の大きさを語った。
「LINE公式アカウントって、すでに46万以上がアクティブに動いていて、そこに“Mini Dapp”を組み合わせるだけで、新しい企画やタスクが簡単に展開できる。
今までバラバラだったデータやユーザーが、“ウォレット”という共通の基盤で連携できるようになるんです。」
従来のWeb2型のマーケティングでは、「この顧客がいくら使ったのか」「どれだけアクティブなのか」といった情報は、企業ごとに閉じられ、不透明なままであることが多かった。
しかし、Dapp Portalを活用すれば、ユーザーのアクションや“熱量”が、ブロックチェーン上に証明付きのデータとして記録される。
こうした“証明可能な熱量”があることで、企業はより解像度の高いユーザー理解が可能になり、的確なタイミングでアプローチできるようになる。
ユーザーは自分の“行動履歴”が、魅力的なオファーや体験、報酬へとつながっていく。
その言葉を受けて、LINE NEXTの栗原氏もこう続けた。
「握手会に100万円以上費やしたファンがいれば、その“愛”を証明するモノがブロックチェーン上にあったら、別のアイドルグループから“うちのライブへ無料招待”というオファーが届くかもしれない。」
「今までの広告って、“表示されるもの”だったじゃないですか。でもWeb3では、“自分がやった行動が証明されて、それが価値になる”。
ユーザーの行動と熱量が、トークンやNFTという“証明付きのデータ”としてはっきりと残るからです。」
広告の本質的な変化──それは「表示されるもの」から「参加したくなる体験」へと変化すること。
たとえば、ユーザーがLINE公式アカウントを通じてキャンペーンに参加し、タスクをクリアするとNFTが発行される。
これは単なる“報酬”ではなく、「この人はこの行動をとった」という“行動の証明”となり、ユーザーの履歴が趣味・嗜好などへの理解につながる。
つまり、Web3では「誰に」「なぜそれを届けるのか」がより明確になる。
広告が“押しつけられる”ものじゃなく、“受け取りたくなる”ものへ。
Mini Dappは、そんな広告と体験の境界を、LINEという日常の中で新たな体験を生み出そうとしている。
その変化の“始まりの場”を、まさに全員で共有したような、そんなセッションの締めくくりだった。
まとめ
Mini Dappが示したのは、「Web3はまだ遠いもの」ではなく、「日常のすぐ隣にある選択肢」だった。
前半のセッションでは、LINE NEXTとKaia Foundationが登壇し、Mini Dappを支える基盤「Dapp Portal」の急成長と、その背景にあるLINEエコシステムの強みが語られた。
そして、後半のセッションでは、Web3がもたらす“ユーザー体験の変化”にフォーカスが当てられた。
「焼き鳥NFT」や「推し活の証明NFT」といったユニークな事例は、「好きの熱量が証明され、マーケティングの起点になる」というWeb3ならではの価値を言及していた。
ユーザーにとっては、自分の“行動”や“趣味”がトークンやNFTという形で証明されることで、思いがけない価値に変わる。
「資産性」「透明性」「つながりやすさ」。
それらすべてが、LINE × Web3という環境でスムーズに機能する。
LINEという生活導線の上で、Web3体験が「意識しなくても始められる」レベルにまで落とし込まれつつあるいま、Mini Dappは、企業にとってもユーザーにとっても、実用性のある“選択肢”になってきている。
2つのセッションで登壇者たちが語ったのは、“まだ遠い未来の話”ではなかった。
Mini Dappとは、今この瞬間から企業とユーザーが一緒に触れていける「すでに始まっているWeb3の姿」である。
このアプリケーションが起点となり、“生活の中で自然に使えるWeb3”が、いよいよ本格的に具現化されていくことを期待したい。
なお、本イベントを主催した0x Consulting Groupでは、Web3サービスの立ち上げから運用・拡張までをサポートする支援体制を提供しています。
Web3やブロックチェーン、ゲーム開発の知見がない企業でも安心して取り組めるよう、「立ち上げパック」や「プロモーションパック」など、目的に応じたメニューが用意されています。
お問い合わせはこちらより受け付けているとのことです。