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【取材】模倣品対策にブロックチェーンは有効か ─ 企業の利益と協力|松本大学 田中 正敏 教授

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インターネットで購入した商品が「本物かどうか分からない」と、不安に感じたことはありませんか。こうした模倣品の問題に対し、製品や取引の履歴を確認する手段として、ブロックチェーンが研究されています。

本物と偽物を見分けられるようになれば、消費者は安心して買い物ができ、正規品を扱う企業にもメリットがありそうです。しかし、数理モデルによる分析では、導入費用がゼロでも、オンライン・プラットフォームがブロックチェーンを採用するとは限らないといいます。

その理由は、情報が明らかになることで、消費者の選択だけでなく、企業の価格設定や利益も変わる点にあります。

松本大学の田中正敏教授は、2023年に「模倣品を考慮したサプライチェーンシステムにおけるブロックチェーンの導入の試み」という研究を学会で発表しています。

今回は田中先生に、模倣品対策におけるブロックチェーンの可能性と、導入を左右する企業の意思決定について伺いました。

プロフィール

田中 正敏

松本大学大学院 総合経営研究科/松本大学 総合経営学部 総合経営学科 教授

専門は最適化理論、サプライチェーン・マネジメント、契約理論。近年は情報の非対称性や企業間契約、ブロックチェーン導入などをテーマに、企業間の協力や利益配分に関する研究に取り組んでいる。

1 模倣品問題の背景にある情報の格差

――まず、模倣品が存在するサプライチェーンを研究テーマにされた背景を教えてください。

背景には、オンライン・プラットフォームの拡大に伴って、模倣品がサプライチェーンの中に入り込む問題が顕在化していたことがあります。

サプライチェーンとは、製品の生産から流通、販売に至るまでの一連のつながりです。その中に模倣品が存在すると、消費者は正規品と模倣品を正確に区別できない場合があります。誰がどのような情報を持っているかに差が生じるわけです。

そこで、製品の出所や取引の履歴を確認する手段の一つとして、ブロックチェーンに着目しました。

今回の研究では、Lu et al. (2022)の研究を基礎に、ブロックチェーンを導入した場合としない場合で、企業の価格設定や需要、利益がどう変わるのかを検討したことが出発点です。

――商品が消費者に届くまでの過程に、模倣品が入り込むことがあるのですね。そもそも模倣品の流通は、企業や消費者にどのような影響を与えるのでしょうか。

正規品を扱う企業にとっては、本来得られるはずだった需要や利益が奪われる可能性があります。加えて、消費者が模倣品を正規品だと思って購入し、その品質が低ければ、正規ブランドの信用まで損なわれるおそれもあります。

このように模倣品問題は、企業の利益、ブランドや市場への信頼、消費者の意思決定に影響します。ただし、誰にどの程度の影響が出るかは、市場構造や契約条件によって異なります。

――今回の模倣品の問題を含め、先生の研究の根底には、どのような問題意識があるのでしょうか。

正しいことをしても、望ましくない結果になることがあります。逆に、望ましくない行動を取ったのに、良い結果になることもあります。私が関心を持っているのは、そうした行動と結果の食い違いです。

情報の持ち方に差がある状況で、どうすればリスクを小さくできるのか。そして、関係する人や企業が共に利益を得られる関係を、どう作れるのか。そうした問題を考えています。

2 ブロックチェーンで確認できる情報とその限界

――ブロックチェーンの導入により、どのような効果が期待できますか。

サプライチェーンでは、企業や消費者によって、知っている情報に差があります。これを「情報の非対称性」といいます。今回の研究では、正規品と模倣品を見分けられる消費者と、見分けられない消費者がいる状態を想定しています。

ブロックチェーンを利用すると、製品がどこで作られ、どのような取引を経て届いたのかといった履歴を、関係者が共有・確認しやすくなります。

今回のモデルでは、こうした情報によって、それまで正規品と模倣品を見分けられなかった消費者も、区別できるようになると仮定しています。これが模倣品対策につながる仕組みです。

――なるほど。商品を見分けるための情報を、消費者も確認できるようになるのですね。それによって、情報の非対称性は解消されるのでしょうか。

すべてがなくなるわけではありません。ブロックチェーンが得意なのは、記録された取引や製品情報の信頼性を高めることです。

一方で、取引相手が何を考えているのか、どの程度努力するのか、今後どのように行動するのかまでは、ブロックチェーンだけでは分かりません。

そのため、情報を共有する仕組みと併せて、契約やインセンティブを考える必要があります。場合によっては、相手の特徴を見極める「スクリーニング」や、自分の能力や信頼性を伝える「シグナリング」といった工夫も必要になります。

――相手の特徴や行動を把握する、ということですね。具体的な例を教えていただけますか。

例えば、生命保険では、加入する本人は自分の健康状態を知っていても、保険会社が同じ情報を持っているとは限りません。本人が伝えたくない情報を、保険会社は知りたいということもあります。

また、自動車保険では、「保険があるから大丈夫」と安心して、運転への注意が弱まる可能性があります。保険に加入していることが分かっても、その人がどれだけ慎重に運転するかまでは分からないわけです。

――相手がどのような情報を持っているかに加えて、実際にどう行動するかも考える必要があるのですね。

そうですね。企業間の取引でも、約束を守り、協力することが各企業の利益につながるように、契約や報酬の条件を考える必要があります。こうした行動の動機になるものが「インセンティブ」です。

また、契約条件などを通じて相手の特徴を見極めたり、実績などを示して自分の能力や信頼性を伝えたりすることも、相手を理解する手がかりになります。

私は、ブロックチェーンを、情報の非対称性を小さくするための一つの手段として捉えています。その情報を生かして企業同士が協力するには、契約やインセンティブも組み合わせて、仕組みを整えることが重要だと考えています。

3 本物を見分けられると価格や需要も変わる

――今回の研究では、ブロックチェーンを導入した場合としない場合を、どのような方法で比較したのでしょうか。

Lu et al. (2022)のモデルを基礎として、ブロックチェーンを使わない場合と使う場合の二つを比較しました。

登場するのは、正規品を販売する企業、模倣品を販売する企業、オンライン・プラットフォーム、そして消費者です。

導入しない場合、正規品と模倣品を見分けられない消費者は、十分な情報を持たないまま購入を判断します。導入した場合は、製品情報を確認して両者を区別できると仮定します。

その上で、企業がどのような価格を付けるのか、消費者がどちらの商品を選ぶのか、需要や利益がどう変わるのかを、数理モデルで比較しました。

専門的には、ゲーム理論的な考え方を使っています。自社だけで価格を考えるのではなく、他社の行動も踏まえて価格を決めるという、企業間の相互作用を扱う方法です。

――他社がどう動くかも考えながら、自社の価格を決めるのですね。その分析では、企業の行動にどのような変化が見られましたか。

消費者が正規品と模倣品を区別できるようになると、企業側も、今までと同じ行動を取ることが最適ではなくなります。

例えば、手数料型の契約のモデルでは、正規品を扱う企業は、これまで模倣品を購入していた消費者を取り込むために価格を下げます。それに対して、模倣品業者も競争上、価格を下げる反応をします。

このモデルをもとにした分析では、この場合、正規品の需要は増加し、模倣品の需要は減少するという結果になります。

情報が変われば、消費者の購買行動が変わります。その変化を予想して、企業の価格設定や競争行動も変わります。

※手数料型の契約とは、販売者が商品を販売し、プラットフォームが売上に応じて手数料を受け取る仕組みです。

――本物だと分かるようになると、企業側は価格を上げることもできそうです。ここでは、なぜ下げるのでしょうか。

これまで模倣品を購入していた人にも正規品を選んでもらうために、価格を下げます。価格を下げても、販売量を増やせるという考え方です。

すると、模倣品を扱う企業も、競争するために価格を下げることになります。

※ここで紹介している価格や需要の変化は、特定の契約や市場の条件を置いた数理モデルの結果です。現実のすべての市場で、同じ変化が起こるという意味ではありません。

4 導入費用がゼロでも採用されない理由

――正規品を扱う企業には、導入のメリットがありそうです。では、販売の場を提供するプラットフォームにとっても、同じようにメリットがあるのでしょうか。

必ずしもそうとは限りません。プラットフォーム側から見ると、ブロックチェーンを導入すれば必ず利益が増えるとは限らないのです。

今回検討したモデルでは、導入による純粋な効果を見るために、導入費用をゼロと仮定しています。それでも、必ずしも採用されるわけではないという点は強調したい点です。

Lu et al. (2022) の研究でも、模倣品の品質、消費者のプラットフォームへの信頼、契約形態によって、導入するインセンティブが変化することが示されています。

――導入費用がかからなくても、採用しない場合があるのですね。導入の効果が出やすい場合と、導入する動機が弱くなる場合には、どのような違いがありますか。

例えば、模倣品の品質が低く、消費者がプラットフォームをあまり信頼していない場合には、正規品と模倣品を区別できるようになる効果が大きくなります。

一方、模倣品の品質が高く正規品との差が小さい場合には、本物と偽物を区別できるようになっても、価格の安さなどから模倣品を選ぶ消費者が残ります。その場合、両者を区別できるようになることの効果は相対的に小さくなります。

また、プラットフォームの収益構造によっても、導入の動機は変わります。例えば、販売額に応じて手数料を受け取る契約では、導入後に正規品や模倣品の販売価格が低下すると、1件当たりの手数料収入も減少します。販売量の増加によってその減少を十分に補えない場合には、ブロックチェーンを導入して情報を明らかにしても、プラットフォームの利益が増えないことがあります。そのため、導入費用がゼロであっても、導入する動機が弱くなる場合があると考えています。

――模倣品を見分けられるようになることと、販売の場を提供するプラットフォームが利益を得られることは、別なのですね。

また、契約形態も関係します。Lu et al. (2022) の研究では、手数料率が高い場合には、手数料型の契約の方が卸売契約よりも導入を促しやすいことが示されています。

技術の効果を考えるときには、市場の状況や消費者の信頼、企業間の契約関係まで含めて見る必要があります。

※卸売契約では、プラットフォームが正規品を仕入れて消費者に販売するのに対し、手数料型では、販売者の売上の一部を手数料として受け取るため、プラットフォームの収益構造が異なります。

5 正しい情報を共有し続けるための仕組み

――ブロックチェーンを実際の企業やサプライチェーンに導入する際には、どのような課題がありますか。

まず、どの企業がどの情報を提供し、どこまで共有するのかという調整が必要です。複数の企業が参加していても、全社が同じ目的を持っているとは限りません。

次に、情報管理の問題があります。ブロックチェーンは、記録された情報を改ざんしにくくすることに強みがあります。しかし、最初に入力する情報そのものが正しいかどうかは、別の問題です。

――記録を書き換えにくくしても、最初に入力する情報が正しいかどうかは、別に確認する必要があるのですね。

誰が入力し、誰が確認し、その正確性をどう担保するのかという仕組みが必要になります。

実際には費用もかかります。システムの構築に加えて、既存システムとの連携、運用、人材教育などの費用があり、それを誰が負担し、誰が利益を得るのかも考えなければなりません。これらは、導入費用をゼロとしたモデルの外にある課題です。

――システムを作る費用に加えて、日々運用する負担も含めて考える必要があるのですね。その中で、特に重要だと考えていることは何でしょうか。

インセンティブです。技術的に導入できても、各企業に、情報を正しく提供し、継続的に利用する動機がなければ、サプライチェーン全体としては機能しません。

契約や費用負担、利益配分まで含めて設計する必要があります。

6 企業間の信頼と協力をどう設計するか

――今後、模倣品対策以外では、どのような活用の可能性があるとお考えですか。

調達先の確認や物流履歴の把握など、サプライチェーン全体の透明性や信頼性を高める仕組みとして活用できる可能性があると思います。

――最後に、そうした可能性を生かすために、大切だと考えていることを教えてください。

企業がなぜ情報を提供するのか、なぜ協力するのかという問題は、契約やインセンティブの設計と関係します。今後は、企業間の情報共有や契約、インセンティブ設計と組み合わせて活用することが重要になると考えています。

結局のところ、重要なのは、どの情報を共有し、その情報をもとに企業同士がどのように協力する仕組みを作るかです。企業間の信頼と協力をどう設計するかが目的だと思います。

後書き

今回の取材で印象に残ったのは、模倣品を見分ける情報が得られるようになると、企業の価格設定や利益も変わるという点でした。消費者が商品を選ぶための情報を得られても、それを導入する企業にとって、採用する動機が生まれるかどうかを考える必要があります。

また、記録を改ざんしにくくする技術があっても、入力する情報の正確性や、共有を続けるための動機は、別途整えなければなりません。技術を実際に役立てるには、参加する企業がどのように行動し、費用や利益をどう分けるかまで考えることが大切だと感じました。

その背景にある、正しい行動を取っても、望ましい結果につながるとは限らないという先生のお話も心に残っています。情報を持たない側にも目を向け、関係者が共に利益を得られる仕組みを考える。その問題意識に触れたことで、ブロックチェーンを導入するかどうかだけでなく、誰のために、どのような協力の仕組みを作るのかを考える大切さを学びました。

田中先生、貴重なお話をありがとうございました。

  • この記事を書いた人

gamefi.town編集部

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